DVの被害と在留資格
DV被害にあった在住外国人女性の離婚、在留資格
離婚の手続きと在留資格
在留資格には、就労を目的とした在留資格、就労を目的としない在留資格、身分による在留資格と大きく三つに分類されている。
- 就労系の在留資格(特定の仕事)――教授、医者、高度技術他
- 就労を目的としない在留資格――留学、研修、家族滞在他
- 身分による在留資格――日本人の配偶者、永住、定住他
夫・パートナーが日本人
在留資格は「日本人の配偶者」となる。その後一定期間がたつと永住者の取得申請が可能。離婚しても「永住者」ははく奪されない。「日本人の配偶者」の資格は、離婚により「定住者」に変更する必要がある。専門的な仕事をする場合は就労系の在留資格を取る。パートナーが外国籍
子どもがいるかどうか、親権者になれるかどうかは、在留資格に大きく影響する(730通達)。① 日本人との間の実子の親権者である。
② 現に相当期間養育して監護している、この二つがあれば、あまり問題なく定住者の在留資格が出る。
生活保護を受けていても、子どもを育てていれば定住者の資格が出る場合も多い。
子どもがいない、あるいは親権者ではない
子どもがいない、あるいは親権者ではない場合の離婚後、定住者変更の要件は、(実質的な)婚姻期間が 3 年、そのうち日本で 3 年在留していること。ただし、最近はこの判断は厳しくなっている(東京入国管理局管内)。
※永住者の場合は、離婚によって在留資格に影響を受けることはない。
離婚協議中の在留資格について
別居中・離婚協議中に在留期間の更新は可能 :「日本人の配偶者」として更新する。
離婚協議中・DVで逃げている等で、夫からの身元保証書を出せない場合は、その理由を入国管理局に説明する。DVでの傷跡などの証拠写真等があれば一緒に提出する。
DV案件の在留審査について、配慮を求める通達も出ている(平成 20 年7月 10 日付法務 省入国管理局長通達・法務省管総第 2323 号)。
また、現在の手続きの進捗や今後の見込み(子どもがいる場合には親権をとる見込みが あるか等)も説明する。→ 期間は 6 か月となり、更新を繰り返す必要がある。
在留資格 その他の注意点離婚協議中の手続き
離婚協議中の手続き
90 日以内に住所の変更をしないと在留資格取消しの事由になる(ただし、正当な理由がある場合を除く)(入管法 22 条 の 4 第 1 項 9 号)。
DVにより、住所は変更できないことを入管に話しておく必要がある。また、住所登録と現住所が違うことで、入管から指摘を受けることもある。指摘される前に入管に届け出ることが望ましい。
虚偽の届出をした場合も在留資格取消し事由(同法同項 10 号)となる。
離婚後 14 日以内に入国管理局に離婚の報告をする(入管法第 19 条の 16 第 3 号)。 離婚後遅くとも 6 か月以内に在留資格を変更する。理由は、「配偶者の身分を有する者」としての活動を継続して 6 月以上行わないで在留していることが在留資格取消し事由となるため(入管法 22 条の 4 第 1 項 7 号)。 ※ただし、当該活動を行わないで在留していることに正当な理由がある場合を除く。別居中で離婚協議中の場合は、まだ「配偶者の身分を有する者」となる。
■ケース: A国出身の女性Yさんの場合
子どもの親権をとることができれば、離婚後に定住者の在留資格の変更 申請をする。日本人の配偶者の在留期間更新は、事情を説明し、夫の身元保証書等の協力なしで申請する(ただし、身元保証人自体は原則必要)。
離婚による子どもへの影響
親権:日本は単独親権(西欧諸国は共同親権が多い)
●裁判所の子ども関係の調査官が行う調査 ●
親権についての判断基準は、「子の利益」。父母双方と子どもの事情から判断する。
父母双方の事情:
監護意欲・能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、愛情、親族・友人等の援助の可能性等。
子の事情:
年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、従来の環境への適応状況、子の意向等。
子どもの年齢が小さいほど母性優先の傾向がある。また現在の監護状態の維持が大切。
調停や裁判では、家庭裁判所調査官が関わり、子の生活状況・ 監護親の監護状況等の調査が なされ、報告書が出される。
■ケース: A国出身の女性Yさんの場合
親権の可能性
積極方向:
現在監護をしているのはYさんであること、子どもが 3歳という年齢、夫の暴力がある。
消極方向:
Yさんの経済力(子どもを育てていけるか)、日本語能力(保育園や学校との連絡等)。
子の国籍・在留資格等については、日本国籍を持っているので問題はない。
■ケース: A国出身の女性Yさんの場合
10 年ほど前に来日したYさん。5 年ほ ど前に日本人の男性と結婚し、3 歳にな る子どもがいる。夫は、元々言葉の暴力 が ひ ど か っ た 。 最 近 、 酔 っ た 夫 か ら 殴 ら れたり蹴られたりする。Yさんは結婚後 、仕事を辞めている。在留資格は「日本 人の配偶者」。4 か月後に在留期限が切れる。ある日、酔った夫が首を絞めてきた。 これ以上耐えられないと思い、子どもを連れて家を出た。夫の元に戻ることは考 えられない。
被害者が外国人女性の場合の特徴
①日本では離婚の手続きを終えれば離婚が成立するが、外国籍の場合は、
在留資格変更の手続きをする必要があるなど問題が複層的。
②在留資格、経済面への依存、制度や仕組みに対しての知識不足、在留資格について
「知らない」こともあり、夫(パートナー)からコントロールを受けやすい。相談できる場所や機関も知らない。
③①②の問題が重なってDVの被害は外に出にくい。
基本的には日本人のDV被害者と同様の支援を行う+在留資格の手続きが伴う。
まず、Yさんの身の 安全の確保をする
解決する必要がある問題
Yさんが離婚を決めた場合、係争中、離婚後、子どものこと、生活についてどうするか。 生活保護の確保、在留資格やその他の手続きのこと、親権、養育費、子どものことも。 離婚の手続きに優先して(並行して行うことができるのであれば同時に)、夫から激しい追及が見られる場合は保護命令申立てが可能。
保護命令の内容 (DV防止法に規定)
要件 1
配偶者からの ①身体に対する暴力を受けた者が配偶者からの ②更なる身体に対する暴力により、その ③生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと (DV 防止法 10 条 1項)あるいは、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者は、配偶者からの身体に対する暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと (DV防止法 10 条 1 項)要件 2
配偶者暴力相談支援センターの職員又は警察職員に対し、暴力について相談し、援助若しくは保護を求めたこと、あるいは公証人の認証のある申立人の供述書面が存在すること (DV 防止法 12 条 1 項 5 号・同条 2 項)
赤字 3点の要件があるかどうかで判断される。裁判所では証拠が重要となるため、傷跡 (写真を撮る場合、傷跡と本人全体の両方)、診断書、警察への相談が必要。
保護命令が発令された場合、身の安全が確保されて、今後について考えていくことになる。
離婚手続きについて
日本の離婚制度 : 協議離婚 調停離婚 裁判離婚
協議離婚
離婚届を提出するのみ(国際的には珍しい制度で中国、韓国など)。親権や財産分与等でもめる場合には難しい。外国人女性の場合は夫が勝手に提出してしまう可能性があるので、不受理届けを出しておく。
※家不受理届は居住地の役所に提出する。急を要する場合は届出人の本籍がある市区町村に
調停離婚
家庭裁判所で行う手続き。調停委員 (男女 1 名ずつ) が夫・妻双方に別々に話を聞き、合意を目指す。最も頻繁に利用されている。
DVの場合は申立て時に情報の扱いを注意する。家事事件手続法施行後、提出書類は相手方にも開示されることが原則となった。よって、少なくとも「申立書」には、住所地など相手側に知られては困る内容は記入しない。申立書以外の事情説明書は提出できるが、相手側の求めがあれば書類は原則、開示される。ただし、非開示の申出をすれば基本的には非開示の扱いにしてくれる。非開示申出書があるので、それを必ず付ける。
※DV案件への裁判所の対応——開始時間をずらす、終了の最後は夫にしてもらう、待ち合わせの階を変える(東京家裁《本庁》の場合)等。通訳者は基本的に同席可能(事前に連絡をしておく必要がある)。
裁判離婚
調停での合意ができなかった場合の手続きは、法廷の離婚事由 (民法第 770 条) が必要。 最終的に尋問手続きを行う場合には、DV案件は、遮蔽あるいは 別室での尋問措置もありうる (民事訴訟法 203 条の 3,204 条)。
夫が日本人の場合
日本法に基づいた離婚手続きが可能(法の適用に関する通則法第 27 条・25 条)
夫も外国人の場合
■ケース: A国出身の女性Yさんの場合
夫が日本人なので、日本法に基づいた離婚手続きが可能。
夫も離婚を望む場合、子どもの親権を夫 にしたまま離婚届が出されてしまう 可能性があるので、不受理届けを出す。Yの出身のA国でも結婚の登録をして いる場合、Yが離婚の登録を望む場合、本国で協議離婚が認められているかど うかを調査する。認められない場合は調停の手続きをするのが望ましい。
夫とのそれまでの離婚に関する協議や夫の性格等を踏まえ
どちらか判断する
DV被害にあった場合の注意事項
居住地を含めた情報の秘匿・管理: 住民票を異動しない (相手方弁護士による取得のおそれがある)
求職中などで異動する場合は、住民票・戸籍の閲覧・交付制限をかける(非開示請求)。できる限りDVの客観的証拠を残す(診断書、警察や婦人相談所への相談記録等)。
外国籍同士の離婚の場合、その国の法律を調べる必要がある。できる限り正確な情報を提供する必要があるので、現地の情報に精通した弁護士に相談する。