今後の課題

監修者プロフィール

土方聖子さん 

NPO 法人全国女性シェルターネット共同代表。元多摩でDVを考える会代表。 
女性の人権の確立と安心して暮らせる社会の実現を目指し、シェルター及びステップハウスを立ち上げ、DV被害にあった女性、子どもへの支援を行う。同行支援事業多摩地域コ ーディネーター。 

大津恵子さん 

一般社団法人ウェルク(WERC)の代表理事。女性の家 HELP 元ディレクター。移住労働者と連帯するネットワーク元共同代表、人身売買禁止ネットワーク共同代表。2000 年DV防止法策定にあたり、DV被害者の現場の状況から意見を申し入れた。長年外国籍のDV被害者支援に携わり、内閣府女性に対する暴力に関する専門委員を約 10 年間務めた。  

福島由利子さん 

ウェラワーリー・コーディネーター。
1980 年代後半から人身取引及びDV等の被害者の保護、相談、通訳を行い、1992 年から2002 年、外国人女性のための緊急避難施設「女性の家サーラー」シェルター運営責任者。在日外国人女性の人身取引及びDV被害者の一時保護・ケースワークを行う。「全国どこからでも、行政ができないことを自分たちがやる」という意気込みで取り組んできた。その後、外国人女性の支援に何が必要かという視点から、多文化を理解するケースワーカーの同行を行うウェラワーリーの活動に参加。コーディネーター。外国人電話相談、HIV 関係及び医療通訳、同行支援・通訳。タイ語通訳・翻訳が本業。 
「タイの女性」「タイ女性支援」担当。 

皆川涼子さん 

弁護士。大学時代のフィリピン人母子家庭への支援を通じて弁護士を目指した。日本語を母語としない女性への司法支援や人身取引問題への取組みを積極的に行う。人身取引被害者弁護団(Lawyers for Trafficked Vicitims:LTV)事務局長。専門は、入管事件、渉外家事・労働事件。 「DV被害にあった在住外国人女性の離婚、在留資格」「在留資格ってなに?」担当。 

山岸素子さん 

カラカサン共同代表、移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長、立教大学非常勤講師などを務める。長年にわたり、地域での移住女性と子どもの支援、移住女性を中心とした調査・アドボカシー政策提言活動などに関わる。「国際結婚と離婚」「フィリピンの女性」「フィリピン女性へのDV、子ども」「支援に際しての留意点」担当。 

李 華さん  

日中関係のイベントや貿易等の通訳・翻訳をした後、 区役所非常勤職員として約 20 年間、在日外国人の通訳と相談業務に従事。外国人登録や生活相談、DV被害者など多岐にわたり主に中国人を支援。日本語ボランティアの養成、教室の設立、運営等幅広く活躍している。 

池田恵子さん 

バングラデシュやネパールの国際協力の現場を経て 2000 年から静岡大学教員。開発政策や国際協力がジェンダー平等の視点に基づいて行われるためには何が必要か、また開発に伴う女性の状況の変化について研究している。バングラデシュにおける女性への暴力の社会文化的背景、近年の経済発展による女性への暴力の傾向と被害者支援の変化についても詳しい。 
「バングラデシュにおける女性への暴力とその対策」担当。 

千代崎未央さん 

大学院で近代エジプトの女性運動史を研究。2003 年から 2005 年までのエジプト留学で、ムスリム女性たちの生活に接する。数年間男女共同参画センターに勤務し、講座の企画等を行った。地域での様々な活動を実施している。 

おわりに

困難に出会った女性たちに日本語教育や様々な経済的、物理的な支援のメニューを提示しても、その支援を拒否したり、支援を受けつつもいなくなってしまう女性たちが日本人のケースより多く存在します。その背景には何があるのか、気になっていました。 

ある日、支援中にフェードアウトしてしまった外国籍の女性が同国人に同行されてやってきました。以前母子で保護していた施設から突然いなくなった女性です。施設には共同生活のルールがあります。夜は働かない、門限がある、子どもを置いたまま自由に外出しないなど、子がいれば日本人にとって当たり前のことを、施設のスタッフや学校、子育てセンターの方々が外国籍の彼女に強く言っていました。日本社会に適応できるようにという配慮からしたことでした。しかし、彼女は、友人を部屋に呼んで子のお誕生日祝いをしたいと言ったとき、「それはだめ」と言われました。人生の楽しみを奪われ、「日本人としての」生活の仕方を強要され、辛いと感じたようでした。その後子どもの日本語力を頼りに同国の友人を探しあて、その友人に子どもを見てもらいながらできるクリーニングの仕事を紹介してもらい、職場の保証でアパートも手当してもらって働いていました。 

私たち支援者側が気づかされたのは、彼女にとっては、いままで生きていた危険で厳しい環境から思い切って飛び出したのはいいものの、外の日本人社会のほうがもっと冷たく厳しいと感じたという事実でした。 

私たちが支援した外国籍女性たちのその後の物語は各々様々です。新たな環境を選択して生きることであったり、元の危険な環境に戻る、子どもを置いて一人帰国することを選択した人もいました。決断に至るまでのプロセスに寄り添う人がいたからこそ、自分自身で納得がいく選択をして歩みだしたのだと思います。 

すでにわが国では、「女性の活躍促進、家事支援ニーズへの対応」の観点から、外国人の家事支援受け入れ事業を展開し始めました。日本で、これまで以上に外国籍女性が数多く活動し生活していくことは確実であり、私たちは多様な背景を持った女性や子どもたちとのこれまで経験したことのない共生が求められていきます。そうしたなかで、DVをはじめとする暴力の予防及び被害者対応は、私たちの目の前に切実さをもった課題として立ち現れています。 
この冊子で語ってくれた人たち、支援団体の支援者や弁護士、多文化共生相談員は、現在、そしてこれからの外国籍被害者支援のロールモデルです。 
多くの支援者の方々には、忍耐強く見守り、手を出し過ぎず、個々の文化を尊重しながら息長く寄り添い続ける支援を実感していただき、一人でも多くの外国籍女性と出会って新たな物語を紡いでいただけることを願って止みません。 

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